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 古田史学論集 第二十三集が2020年3月30日に発売された。今回のタイトルは 『「古事記」「日本書紀」千三百年の孤独―消えた古代王朝―』である。『日本書紀』を読もうとすると頭が痛くなるという人もいるようだが、権力闘争の血なまぐさい歴史を綴っているため、読んでいて重たくなる感覚は分からないでもない。
 学会では日本の正史として必ず引き合いに出される『日本書紀』であるが、あくまでも勝者である大和朝廷の正統性を主張するためのイデオロギーの書であるという史料的性格を無視して、そこに書かれていることが客観的事実であるかのごとく無批判に信じ込むことは学問的ではない。大和朝廷に先立つ日本列島の代表王朝の存在を前提とする古田武彦氏の多元史観に基づく史料批判により『古事記』『日本書紀』の中に失われた九州王朝(倭国)の痕跡を探り出し、真実の古代史像を明らかにすることが本書の目指すところである。
 そのような視点なくして、記紀の字面だけ追っていても、背後の真実は見えてこない。そういった意味で、古田史学が登場するまでは『古事記』『日本書紀』を真に理解する者は存在しなかったと言っても過言ではなかろう。まさに1300年の孤独であった。
 同じことは『聖書』についても言える。『聖書』を神からの啓示の書として神聖視するあまり、聖句の裏に隠された真実を理解する者はいなかった。例えば「マタイによる福音書」第11章11節に、イエスが次のように語られた内容がある。
 あなたがたによく言っておく。女の産んだ者の中で、バプテスマのヨハネより大きい人物は起らなかった。しかし、天国で最も小さい者も、彼よりは大きい。
 とりわけ聖職者であればなおさら、バプテスマのヨハネを信仰的な人物と信じて止まないため、後半部分の「しかし、天国で最も小さい者も、彼よりは大きい」の意味を理解できなかった。いわば『聖書』2000年の孤独である。クリスチャンたちの意に反して、バプテスマのヨハネが失敗したことをイエスは明言していたのである。
 さて、『古代に真実を求めて』シリーズ、今回の内容を目次で紹介しておこう。先だってより言及している『日本書紀』α群・β群についての谷川清隆氏の論稿にも注目である。

目次

巻頭言 『日本書紀』に息づく九州王朝[古賀達也]
特集 『古事記』『日本書紀』千三百年の孤独――消えた古代王朝
 『日本書紀』をわたしたちはどう読めばいいのか[茂山憲史]
 『記・紀』の「天」地名[新保髙之]
 「海幸・山幸神話」と「隼人」の反乱[正木裕]
 神武東征譚に転用された天孫降臨神話[古賀達也]
 神功皇后と俾弥呼ら四人の筑紫の女王たち[正木裕]
 継体と「磐井の乱」の真実[正木裕]
 聖徳太子は九州王朝に実在した――十七条憲法の分析より[服部静尚]
 天文記事から見える倭の天群の人々・地群の人々――七世紀の二つの権力[谷川清隆]
 「大化」「白雉」「朱鳥」を改元した王朝[古賀達也]
 白村江を戦った倭人――『日本書紀』の天群・地群と新羅外交[谷川清隆]
 『旧唐書』と『日本書紀』――封禅の儀に参列した「筑紫君薩野馬」[正木裕]
 壬申の乱と倭京[服部静尚]
  コラム①『古事記』千三百年の孤独
  コラム②『古事記』『日本書紀』の「倭国」と「日本国」
  コラム③二つの漢風諡号「皇極」「斉明」
  コラム④『日本書紀』は隠していない――近畿天皇家は九州にあった別の王朝の分家である
一般論文
 なぜ蛇は神なのか? どうしてヤマタノオロチは切られるのか?[大原重雄]
 伊都国の代々の王とは――「世有王」の新解釈[野田利郎]
 対馬「天道法師」伝承の復元――改変型九州年号の史料批判[古賀達也]
 『日本書紀』十二年後差と大化の改新[日野智貴]
  コラム⑤鬯(暢)草とは何か
 付録 古田史学の会・会則
 「古田史学の会」全国世話人・地域の会 名簿
 編集後記


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プロフィール
HN:
朱儒国民
性別:
非公開
職業:
塾講師
趣味:
将棋、囲碁
自己紹介:
 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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