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 臼杵の市内には、いたるところに古い歴史と文化を物語る石造物があります。なかでも、稲田にある臼杵神社の境内には、県内でも珍しい石造物があります。その形が、甲冑に身を固めた武人(頭部はつくられていない)に似ているところから、石甲(せっこう)とも短甲型石人(たんこうがたせきじん)とも呼ばれ、国の重要文化財に指定されています。
 この神社がある小高い丘のようなところは、今から千五百年以上前の古墳時代に築かれた全長87mの前方後円墳で、古代このあたり一帯を支配していた豪族「海人部(あまべ)」の墳墓にあたります。そして、この墳墓の上に立てられた石人は、ここに葬られたものを守衛する番兵としての武人の役割を果たしていたと考えられます。また、この石人について、このあたり一帯では昔から語り伝えられていることがあります。それは、この石人を臼(うす)と杵(きね)に見立て、「臼杵」という地名はこの石人から起こったものであるというものです。

 二基の石人は、長い間野ざらしになっていたこともあり、だいぶ痛んでいますが、その表面からわずかながらも朱の痕跡を認めることができます。おそらく、これらがつくられた当初は全面に朱が施され、さぞかし鮮やかな武人像であったと想像されます。
(https://www.kireilife.net/contents/area/history/1193852_1504.htmlより)


 “臼杵石仏に刻まれた「正和四年」は九州年号か?”では古代にさかのぼる有力な根拠を示すことができなかったが、最新の情報から新たな可能性が見えてきた。結論から言うと、「臼杵」の臼(うす)と杵(きね)は水銀朱を生産するための臼と杵に淵源を持つということである。

 
 昨年、徳島県で赤色顔料「水銀朱」の原料となる辰砂(しんしゃ)を採掘していた坑道が見つかった。弥生時代後期から古墳時代初頭にかけ、辰砂が採掘されていた若杉山遺跡(阿南市水井町)で、入り口付近から辰砂の原石が22点、石杵が10点、内部から石杵が12点が見つかったという。これは日本最古の坑道として注目された。
 その約5km離れた加茂宮の前遺跡から、今度は縄文時代後期の水銀朱生産に関連する遺跡が見つかったのである。徳島新聞に次のように報道された。

 徳島県阿南市加茂町の加茂宮ノ前遺跡で、古代の祭祀などに使われた赤色顔料「水銀朱」を生産したとみられる縄文時代後期(約4千~3千年前)の石臼や石きね300点以上や、水銀朱の原料の辰砂原石が大量に出土した。水銀朱に関連した遺物の出土量としては国内最多。生産拠点として国内最大、最古級だったことが明らかになった。県教委と県埋蔵文化財センターが18日、発表した。
 
 石臼の大きいものは直径約30センチ、石きねは同約10センチ。生産した水銀朱を貯める土器、表面に水銀朱を塗った土器の破片や耳飾りが多く見つかり、関連した遺物の出土数は1000点に上った。水銀朱生産の一大拠点とされる三重県度会町の森添遺跡などでも縄文後期の石臼や石きねが見つかっているが、数十点にとどまる。
 

 調査面積は約1万平方メートル。祭祀に使っていたとみられる石を円形に並べた遺構14基や住居跡2基も見つかった。縄文後期の居住域と祭祀の遺構がまとまって確認できたのは西日本で初めて。
 
  センターによると、辰砂原石は約5キロ離れた若杉山周辺から採取された可能性が高いとみられる。土器の模様には九州の土器に類似した特徴があり、「当時から地域交流をしていたことがうかがえる」としている。
 
 県教委などは2016年度から加茂宮ノ前遺跡を調査しており、弥生時代中期末-後期初頭(約2千年前)の層から、鉄器や水銀朱の生産拠点とみられる集落跡を確認。今回の発見で水銀朱の生産、利用時期は約1500年以上さかのぼることが明らかになった。

 平安時代末期に阿波国那賀郡の南部が分立して海部(かいふ)郡ができた。高知県土佐市宇佐には海部(あまべ)郷、そして大分県臼杵市の海人部(あまべ)とくれば、これらの地域が海上交通でつながりをもっていたことが伺える。

 また、臼杵市周辺に伝わる「朝日長者伝説」は金の鉱脈に関連深い説話であるが、水銀と金の鉱脈はほぼ重なっていると指摘されている。とすれば臼杵市も古代における水銀朱の一大生産地であった可能性が高い。「臼杵」の臼(うす)と杵(きね)は水銀朱を生産するための臼と杵だったのである。


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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
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