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なぜ邪馬壹国でなく邪馬台国が主流となったのか
 『魏志倭人伝』の原文には「邪馬台(䑓)国」でなく「邪馬壹国」と書かれている。「邪馬壹国」が正しいことは、古田武彦氏が著書『「邪馬台国」はなかった』の中で既に論証したことである。では、なぜ邪馬壹国でなく邪馬台国が主流となったのだろうか。
 初めて「邪馬台国」と記述されたのは范曄(はんよう、398〜445年)の『後漢書東夷伝』においてである。『魏志倭人伝』を信頼するなら「邪馬壹国」であり、『後漢書東夷伝』が正しいと考えるなら「邪馬台国」となるだろう。問題は後代の学者たちにとって、どちらがより信用できるかという点にある。
 『粱書』『北史』『隋書』などはいずれも『後漢書』に右へ倣えで、「邪馬台国」と記述した。日本の歴史家たちもまたしかり。松下見林、本居宣長、東大の白鳥蔵吉、京大の内藤湖南など、歴代の邪馬台国研究者は『後漢書』中心主義の流れの中で「邪馬台国」が正しいとして疑わなかった。
 これを喩えるなら、2000年前にイエスと洗礼ヨハネ(バプテスマのヨハネ)のどちらがより信じられるかという選択を迫られたユダヤ人たちの立場と似ている。
 イエスは嘘偽りなく真実を述べ伝えようとした。大工の子として馬小屋で生まれ、母マリヤは婚約中に身ごもったため父親が誰か疑問が持たれていた。律法と矛盾するような言動、「汝の敵を愛せ」など、当時の常識や倫理観を超越する教えを述べ伝えた。当時のユダヤ人たちの目に映ったイエスは、決して信じられる存在ではなかったのである。
 一方、洗礼ヨハネは、①当時の名門の出である祭司ザカリヤの子として生まれた(ルカ福音書1/13)。②彼の父親が聖所で香を焚いていたとき、その妻が男の子を懐胎するだろうという天使の言葉を信じなかったために唖(おし)となったが、ヨハネが出生するや否や口がきけるようになった。この奇跡によって、ユダヤの山野の隅々に至るまで世人を非常に驚かせた(ルカ福音書1/8〜66)。そればかりでなく、③荒野でいなごと野蜜を食しながら修道した素晴らしい信仰生活を見て、一般ユダヤ人たちはもちろん、祭司長までも、彼がメシヤではないかと問うほどに(ルカ福音書3/15、ヨハネ福音書1/20)素晴らしい人物に見えたのである。
 クリスチャンたちはイエスの十字架の死は神の予定であったと言うかもしれない。しかし、そこには洗礼ヨハネの無知と不信があったなどとは考えも及ばぬことであった。
 このような喩えを出したのは「邪馬台国」問題にも同じことが言えるからである。当時の中国および、後の日本の歴史家たちにとって、陳寿(ちんじゅ、233〜297年)の『魏志倭人伝』と范曄の『後漢書東夷伝』のどちらがより信頼できるかという問題に置き換えることが可能である。
 『魏志倭人伝』は①里程に誇張があって信用できない。②記述された寿命が長すぎることへの疑問ーー理性的な学者たちは信ずるに値せずとの判断を下したことだろう。その先頭に立ったのが范曄であった。『魏志倭人伝』の記述をベースとしながらも、疑問とするところは自分の判断で改定し、『後漢書東夷伝』を記していった。この一見合理的とも思える范曄の記録を多くの学者たちが信用した。だが、そこには無知によるとんでもない錯覚があったことが古田氏によって指摘されている。もちろん、范曄独自の新情報を盛り込んだ部分もあったかもしれないが、多くは机上の作文であったことが露呈してきたのだ。
 一方、『魏志倭人伝』の問題点とされてきた①里程問題は「短里(1里=約76m)」の実在によって、かなり正確な実測値であったことが分かってきた。また②長寿問題は「二倍年暦」によって当時の寿命とも整合性がとれ、『三国志』全体に統一的な基準で記載されていたことが判明している。本来信ずべきは『魏志倭人伝』のほうだったのである。
 だが、これまでの歴史の大家たちは2000年前のユダヤ人たちと同じ道をたどっていった。新しい真理を受け入れることができず、かえって闇に葬り去ろうとしたのである。今一度、『魏志倭人伝』と『後漢書東夷伝』のどちらがより信頼すべき史料であるか史料批判してほしい。少なくとも3世紀当時においては「邪馬壹国」という表記を尊重すべきことはご理解いただけるのではないだろうか。もちろんそれぞれに情報価値があるので、一方を捨てる必要もないのであるが……。


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【2020/02/14 11:53 】 | 魏志倭人伝 | 有り難いご意見(0)
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