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 橘氏のルーツを探し求めるときに欠かせない視点がある。植物としての「タチバナ」の分布である。タチバナの生息せぬ場所に橘姓の生ずることは考えにくい。
 タチバナは別名「ニッポンタチバナ」「ヤマトタチバナ」というように、実は日本固有の柑橘である。
伊豆半島を東限とし、和歌山・三重・山口など、太平洋岸の暖地に今でもごくわずか自生しており絶滅危惧種に指定されている。
 もちろん、県犬養三千代がその功績を称えられて杯に浮かぶ橘とともに橘宿禰の姓を賜り、橘氏の実質上の祖となったことはよく知られているところである。その起源譚にしてもまた、植物のタチバナが関係していることは無視できない。
橘は 実さへ 花さへ その葉さへ 枝に霜ふれど いや常葉の樹
 この歌は天平八年(736年)十一月に葛城王(かづらぎのおほきみ)や佐為王(さゐのおほきみ)らが橘(たちばな)の姓を賜って皇族から臣下に下ったときに賜られた御製歌とされている。
 『万葉集』では66首もの歌がタチバナを詠んでおり、花は文化勲章のモチーフとしても知られている。タチバナは古くから日本人に親しまれてきた植物なのだ。
 では、日本に古くから自生してきた唯一の柑橘類とされるタチバナが最も多く群生している場所はどこにあるのだろうか。それが実は、高知県土佐市甲原の松尾山(標高271m)なのだという。東面の尾根上に樹齢300年超の古木を含む約200本が自生し、2008年には国の天然記念物に指定されている。
 今なお、これほどのタチバナの群落が残っているのは大変貴重なもので、学術的にも価値が高いと評価されており、地元住民組織の「タチバナを守る会」等により保護活動が展開されている。なぜ、このような形で残ったかというと、石灰岩が露出した急傾斜の岩角地であるため人工的な栽培活動にも利用されず、また、他の植物の進入も少なかったことからタチバナが生き残ることができたと考えられている。
 土佐市甲原松尾山の日本最大規模のタチバナ群落と橘氏のルーツには何か関係が有るのか、無いのか。違った角度からアプローチしてみるのも面白いかもしれない。
 
 

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