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 巨大な条坊制を伴う難波宮については、一元史観にとっても多元史観にとってもまだ明快な位置づけはなされていない。九州王朝説の立場から、①太宰府を首都とし、難波宮を副都とする。②首都が九州から難波宮に遷都した。ーーなどの考えができるが、どちらが首都でどちらが副都か結論が出ていない状況でも、「複都」という表現であればどちらの説にも対応可能というわけだ。

 『日本古代宮都史の研究』(橋本義則著、2018年)の第一章「藤原京造営試考-藤原京造営史料とその京号に関する再検討―」にも、一元史観の立場から難波宮の位置づけが論じられている。

 京師は漢語では、京がみやこ(都)、師がおおぜいの人々(衆)の意で、「都のうちの特に大なるもの」、すなわち首都を意味する語彙である。
 ……(中略)……
 天武八年の難波における都城の造営を前提として採られた政策が、中国思想に基づく複数制の採用であったと考えられる。……(中略)……この時難波で造営された都城が副都とされたとの明徴はないが、もはや難波における京の存在は自明のことである。

 この宮は建物がすべて掘立柱建物から成っていたが、『日本書紀』には「その宮殿の状、殫(ことごとくに)諭(い)ふべからず」と記されており、ことばでは言い尽くせないほどの偉容をほこる宮殿であったとされる。『難波の宮』(山根徳太郎著、昭和39年)には十七次に及ぶ発掘調査の内容が記され、その全容が明らかになっていく様子が読み取れる。
 7世紀中頃(孝徳紀白雉3年<652年、九州年号の白雉元年>か?)に造営された前期難波宮を九州王朝の都であったとする根拠は、次のようなものである。
 7世紀前半において、畿内には、前期難波宮の前身となるような条坊都市は存在しない。大和朝廷の宮とするには飛躍がありすぎる。一方、7世紀初頭(九州年号の倭京元年、618年)には九州王朝の首都・太宰府(倭京)が条坊都市として存在していた(『古代に真実を求めて第21集――発見された倭京 太宰府都城と官道』古田史学の会編、2018年)。異論はあるものの、前期難波宮にも太宰府と同様に条坊が存在した。よって、前期難波宮は九州王朝の副都であるとするのが、「前期難波宮・九州王朝副都説」である。
 この説は当初、古田史学派からも反論が多かったが、大和朝廷の副都とするにも、都市計画の連続性から見て、かなりの無理がある。前期難波宮の正しい位置づけが、ONライン(701年)前後における王朝交代の流れを明らかにする重要な手掛かりとなりそうだ。

発見された倭京
目次
001 〔巻頭言〕巻頭言 真実は頑固である 古賀達也
 l  九州王朝説による太宰府都城の研究
010 太宰府都城と羅城 古賀達也
017 倭国の城塞首都「太宰府」 正木裕
038 「都督府」の多元的考 古賀達也
054 大宰府の政治思想 大墨伸明
061 太宰府条坊と水城の造営時期 古賀達也
075 太宰府都城の年代観 -- 近年の研究成果と九州王朝説 古賀達也
087 太宰府大野城の瓦 服部静尚
096 条坊都市の多元史観――太宰府と藤原宮の創建年 古賀達也
110 「碾磑」が明らかにする観世音寺の創建 正木裕
118 よみがえる「倭京」太宰府 -- 南方諸島の朝貢記録の証言 正木裕
016 コラム1 「竈門山旧記」の太宰府 古賀達也
036 コラム2 三山鎮護の都、太宰府 古賀達也
049 コラム3 『養老律令』の中の九州王朝 古賀達也
073 コラム4 太宰府条坊の設計「尺」の考察 古賀達也
108 コラム5 大宰府政庁遺構の字地名「大裏」 古賀達也
  II  九州王朝の古代官道
136 五畿七道の謎 西村秀己
139 「東山道十五國」の比定――西村論文「五畿七道の謎」の例証 山田春廣
149 南海道の付け替え 西村秀己
153 風早に南海道の発見と伊予の「前・中・後」 合田洋一
160 古代官道――南海道研究の最先端(土佐国の場合) 別役政光
168 古代日本ハイウェーは九州王朝が建設した軍用道路か? 肥沼孝治
 
146 コラム6 東山道都督は軍事機関 山田春廣
165 コラム7 『長宗我部地検帳』に見る「大道」 別役政光
175 コラム8 九州王朝は駅鈴も作ったか? 肥沼孝治
 
   一般論文
180 倭国(九州)年号建元を考える 西村秀己
184 前期難波宮の造営準備について 正木裕
196 古代の都城 -- 「宮域」に官僚約八〇〇〇人 服部静尚
203 太宰府「戸籍」木簡の考察 付・飛鳥出土木簡の考察 古賀達也
 
217 フォーラム 「倭国(九州)年号」と「評」から見た九州王朝の勢力範囲 服部静尚
 
  ◎付録
224 ○古田史学の会・会則
226 ○「古田史学の会」全国世話人・地域の会 名簿
229 ○編集後記 服部静尚


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朱儒国民
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職業:
塾講師
趣味:
将棋、囲碁
自己紹介:
 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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