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 高良神社余話ーーどう読む? 「こうら」 or 「たから」
 以前、上記のテーマを取り上げたことがあった。今回はその続編とも言えるが、この問題が再浮上してきたのでさらに突き詰めてみたい。
 発端はある宮司さんが高良玉垂命のことを「たからたまだれのみこと」と言っておられるのを耳にしたことだ。かつて『葬られた驚愕の古代史』『新説 伊予の古代』などの著者・合田洋一氏からも、愛媛県のとある八幡宮の宮司さんが境内社「高良神社」の読み方を知らなかったという話を聞いたことがあった。

 筑後国一宮・高良大社に倣(なら)えば、当然「こうらたまたれのみこと」「こうらじんじゃ」のはずである。一元史観の枠内では理解しがたい祭神及び神社であるため、専門家でも意外と知らなかったりする。
 とかく人は自分の知識を以って相手の誤りを正したくなるものだが、それを戒めるところから古田史学は出発している。『魏志倭人伝』の原文は「邪馬壹国」であるが、「壹」は「臺」の誤りなりと根拠もなく原文改定したところから邪馬台国論争の迷走が始まった。古田武彦氏は『魏志倭人伝』中の「壹」と「臺」を全て調べ上げたが、誤りを肯定する根拠は見つからなかった。原文通り「邪馬壹国」が正しかったのである(『「邪馬台国」はなかった』参照)。
 宮司さんが言う「たからたまだれのみこと」は間違いであろうと思いつつ、もしかしたらそのように伝承されている可能性が無きにしもあらずとの謙虚な気持ちも捨てずにいた。
 『新安田文化史』(安田町、1975年)を開いてびっくり。高良玉垂命に「たからたまだれのみこと」とルビがふってあるではないか。宮司さんも当然、地元の学識者によって編集されたこの本を見ているはずである。よく勉強されていると言うしかない。
 この「たから」読みが正しかったのだろうか? 正式な読みは「こうらたまたれのみこと」と主張する自分の考えがぐらついてきた。そこで『新安田文化史』よりも古い『安田文化史』(安岡大六・松本保共著、昭和27年)を探すことにした。古本屋にも無いような貴重な本だが、土佐市立市民図書館で借りることができた。見た目は小さいが、私の欲しい本が必ずと言っていいほど手に入る、“かゆいところに手が届く”図書館である。

 その『安田文化史』の高良玉垂命にはルビはついていなかった。やはり推測は正しかった。『新安田文化史』は安岡大六氏の弟子が『安田文化史』を元に新たな資料も加えて編集したようである。この間、『土佐太平記』(明神健太郎著、昭和40年)が出版されており、その中に「高良玉多礼日子命(たからたまだれひこのみこと)」との記述が登場する。話題になった本なので、編者が目を通していないはずはないだろう。おそらく、この表記を踏襲したのではないだろうか。
 そうなると今度は『土佐太平記』の著者・明神健太郎氏が何を根拠に「たから~」と読んだのかである。史料とした『八幡荘伝承記』自体に書かれていたものか、独自の見解なのか。高知県の歴史研究家が典拠とする『南路志』に、 琉球国から漂着した高良(たから)長峯という船頭の名前が出ていることは前に紹介した。もしこの知識に頼ったとしたら、まさに漂流船に乗ってしまったことになる。沖縄県では地名も姓も「たから」だが、九州島内では俳優の高良健吾(こうらけんご、熊本県出身)に代表されるように「こうら」なのである。



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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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