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 以前から考えていたことだが、日本の神社には先例となるものがあったのではないだろうか。一般に神道考古学では、日本の神道は磐座(いわくら)や神木などの自然物を崇拝するところから自然発生的に誕生し、社殿や鳥居は後に造られたーーといった説明がなされる。

 自然の中に神様を見出し、崇敬する心は誰しもが持つ感情であり、そういう信仰心を否定するつもりはない。問題は神社組織が形成された時、国家権力の関与があったかどうかという点である。

 『古代中国の社 土地神信仰成立史』(E.シャヴァンヌ著・菊地章太訳注、2018年)を読むと、周〜漢代の「中国の社」に関する記述には、古代日本の統治制度と関係があるのではないかと思われる点が見られる。いくつか紹介しよう。
 里は二十五家からなり、そこにひとつの社がある。里には春二月の吉日に土地の社をまつることが義務づけられていた。(P10)

 古代日本では2倍の五十戸を里(さと)としていた。神社では春の大祭が行われる。

 天子は封建諸侯に国を封じるとき社稷を設けさせた。小司徒という官吏がそれを補佐した。[『周礼』によれば]九畿のそれぞれに「社稷の土壇を築き、土地の神とあがめる樹木を植える。土地ごとにふさわしい樹木を選んだので、それぞれの国の社は樹木の名で呼ばれた」という。(P11)


 神社には鎮守の森があり、神木が祀られていることもある。「杉尾神社」「松尾神社」など樹木の名で呼ばれる神社名が存在する。


 「……州長が管轄する地域では、社がひとつ置かれたが、稷は置かれていない。これは州長が師団長の役目をはたしたことにつながっている。古代には軍隊が出動するとき、師団長は社をかたどった[主という]板をたずさえたが、稷の板はたずさえなかった」とある。(P11)

 ご神幸やおなばれのルーツとも考えられる。お神輿は軍隊が出動する際に、神様を伴って行くための社をかたどった板に相当する。

 漢代には皇帝のもとでも、また諸侯の公国にあっても、社稷は周代の封建社会にすでに存在したのと同じ形態を示した。漢王朝の統治機構を採用したいくつもの王朝においても同様である。それは唐にいたるまでつづいた。(P12)

 「漢委奴国王」の金印を授かった倭国も漢王朝の統治機構を採用した可能性が高い。
 社のある場所には土壇が築かれた。(P15)

 古い書物は社の土壇を冢土と記す。……
 漢代に宮廷に置かれた社、すなわち太社は五十歩四方の土壇を有した。壇の四方にそれぞれの方角に対応する色の土が盛ってある。東は青、南は赤、西は白、北は黒、壇の上部は黄色い土である。諸侯の社はその半分の二十五歩四方の土壇を有した。その壇には領地の方角に対応するいずれかの色の土が盛ってあった。(P16)

 後漢の状況については蔡邑の『独断』の記述にあきらかである。すなわち「天子の社では五色の土によって壇が築かれた。……(P18)

 境内に相撲の土俵がある神社も多い。壇に相当するものがあった神社や天子宮の存在。「段」や「壇」地名もあると聞く。

 以上のことから、古代中国の影響を考えるべきであるが、神道は日本古来のものとされている建前上、認めたくない部分も多いだろう。けれども、日本は中国大陸との国交を通じて、政治や経済、文化など沢山の恩恵を受けてきた。
倭国時代に「中国の社」の制度を取り入れて、統治システムの一環として神社制度を創り上げていったとしたら……。
 里ごとに置かれた神社が、今に伝えられる産土(うぶすな)神につながるーーいわば古代における「一村一社(一里一社)」制である。


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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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