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 吾峠呼世晴氏による漫画『鬼滅の刃』が映画化され、テレビアニメ版では「無限列車編」「遊郭編」までが放映された。大正時代の日本を舞台に鬼に家族を殺された少年・竈門炭治郎(かまどたんじろう)と鬼にされてしまった妹・禰豆子(ねずこ)の兄妹が、家族を殺した鬼を倒すため旅に出る冒険物語は絶大な人気を巻き起こした。
 主人公の苗字である「竈門(かまど)」と名のつく神社が聖地化され、ファンが多く訪れるなど社会現象となった。全国的にも関連するスポットに注目が集まっており、長野県の竈神社(長野県大町市大町4718)もその一つとしてクローズアップされた。近隣の白馬村には『ねずこの森』という遊歩道があったり、鬼無里村には鬼女伝説があったり。長野県には「ねずみ」関連地名が多く存在することが指摘されている。一説には動物の鼠ではなく、古代官道上に設置された軍事組織「不寝見(ねずみ)」――寝ずの見張りに由来する地名とも考えられている。

 
さて、今回紹介する高知県の竈土神社(高知市長浜1870)は高知競馬場の南、新川川の北岸に鎮座している。高知県の場合は「竈門」でなく「竈戸」が標準的な表記であり、次いで「竈」が多い。「土」を使う「竈土」の表記は珍しいが、実はブログで紹介するのは2例目である。

 以前紹介した“『鬼滅の刃』ブームと竈土(かまど)神社③――横浜新町”は高知競馬場の北側にあって、まさに高知競馬場を南北に挟んで、2つの竈土神社が子午線(子の方角と午の方角を結ぶ南北線)上に鎮座していることになる。なぜ「土」がついているのかは想像でしかないが、大土御祖神を祭神としていることから「土」の字を用いたのではないだろうか。
 勝負ごとに「土」がつくのは縁起でもないが、地に足をつけて走る馬であれば問題ないかもしれない。高知競馬のハルウララ(生涯戦績113戦0勝)はむしろ、土をつけすぎて超人気になったくらいだ。当時を知らない世代でも、『ウマ娘 プリティーダービー』でブームが再燃している。


 別に縁起を担ぐわけではないが、平安時代中期に編纂された『延喜式』には「鎭竈鳴祭」「御竈祭」などの祭りの名が記されており、竈神のルーツは古く、宮中と関連を持っていたことが分かる。中世、神仏習合の時代には「三宝荒神」として祀られるようになり、明治維新の際の神仏分離政策により、高知県では「三宝荒神」「荒神宮」などに対して、一律「竈戸神社」への名称変更の達しがなされた。
 長野県大町市の「竈神社」について見ても、高知県と事情は似通っている。そのルーツは少なくとも鎌倉時代まではさかのぼることができ、当初は三宝荒神社と呼ばれ、地域の人々にも荒神様として親しまれていたようだ。明治に入り新政府により神仏分離令が発せられると、信濃大町の「三宝荒神社」は神道色の強い「竈神社」に名称が改められ、現在に至ったとのこと。
 祭神が「軻遇突智命(かぐつちのみこと)」「奥津彦(おくつひこ)神」「奥津姫(おくつひめ)神」とされているところは、最も標準的といえる。ある面、『古事記』『日本書紀』の神話体系に合わせたような一元的な祭神について、廣江清氏は『長宗我部地検帳の神々』(昭和58年)で、これらは「神仏分離の際あてられたもので、本来は単に火ノ神であったのであろう」と指摘している。むしろ、今回紹介した「竈土神社」の大土御祖神という祭神は「竈の神」としてはマイナーであり、右へ倣いをしておらず、かえって真実味を帯びている。
 はたして、竈門(竈戸、竈、竈土)神社の祭神「火の神」とはどのような存在なのだろうか。アニメ版『鬼滅の刃』第19話では、竈門家に「ヒノカミ神楽」が伝承されていたことが描かれている。2021年9月に地上波で初放送された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』で「ヒノカミ」の秘密が少しは解けるかと期待していたが、「炎の呼吸」を使う鬼殺隊の炎柱・煉獄杏寿郎でさえ、まったく知らない様子だった。はやく続編が放映されることを期待しつつ、さらなる調査を進めていきたい。

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『探訪―土左の歴史』第19号 (仁淀川歴史会、2023年6月)
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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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