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 「長野県の高良神社②――千曲川流域に分布」のところで紹介した吉村八洲男氏が、以前からブログ『sanmaoの暦歴徒然草』で「科野からの便り」を連載されている。最新ニュース「中国河南省安陽市安陽県の曹操(155~220年)墓出土の鏡が、大分県日田市から出土していた金銀錯嵌珠龍文鉄鏡(きんぎんさくがんしゅりゅうもんてっきょう)に酷似している」との報道に関して、すぐさま「科野からの便り――真田編(四)」として論考が出された。
 この鏡は、日田市で戦前に見つかっていて、その装飾の巧みさと中国でも稀な鏡である事から、1964年に「重要文化財」に指定されている。紹介したのは梅原末治博士で、同市の「ダンワラ古墳」から発掘したものと推定されている。
 「ダンワラ」とは不思議な地名だと思いつつ、天子の「壇」が築かれた「原」ではないか、などと想像を膨らませていたところ、吉村氏の指摘はまた違った角度からのアプローチであった。金銀錯嵌珠龍文鉄鏡に蕨手文が施されているというのである。
 この「蕨手文様」が出現するのは、筑後地域のほぼ連続して築造された9つの「装飾古墳」の中からであり、長野県上田市真田町でも「蕨手文様」が複数発見されている。詳しくは「科野からの便り――真田編(一)(二)(三)」で確認していただきたい。
 ところで、「魏の曹操と九州の山中にある日田と何の関わりあらんや」と不思議に思われる方も多いのではなかろうか。『三国志』「魏書東夷伝倭人条」いわゆる『魏志倭人伝』に邪馬壹国の女王・卑弥呼が魏に使いを送ったことが書かれている。
 中学1年の生徒に聞いたら、やはり239年と覚えていた。原文には238年と書かれているのに、「戦時中に使節を送ることは不可能」との考えから、終戦後の239年と修正しているのである。しかし、239年だとかえって矛盾が生じることを『「邪馬台国」はなかった』で古田武彦氏が指摘している。朝鮮半島がいまだ戦乱にある中での派遣であったからこそ、魏は邪馬壹国を同盟国として信頼し、豪華すぎるほどの下賜品を賜ったのだった。


 さらに『「三国志」を陰で操った倭王卑弥呼』(斎藤忠著、2004年)では、安徽省亳州市にある曹家一族の古墳から出土した字磚(じせん)という文字の刻まれたレンガ片に注目している。元宝抗村一号墓から出た倭人字磚には「……有倭人以時盟不」(倭人が時を以て盟すること有るか)と書かれていて、この一文から、曹家が倭人と盟約関係にあったことが推測されている。共に出土した字磚には建寧三(170)年の年号が刻まれていたことにより、ほぼ同年代のものと考えられる。
 卑弥呼が魏に使者を送ったのは、それから半世紀ほど後のことになるが、当時倭国は呉・狗奴国連合と対峙しており、魏・倭同盟の成否は生命線であった。曹操は「赤壁の戦い」で孫権・劉備の連合軍に敗れるが、魏公から魏王へと位を進め、魏の基礎を築く。息子の曹丕が魏の初代皇帝となり、再三呉に攻め込もうとするが呉の水軍に苦しめられ敗走する。魏からすれば、倭国の水軍の力を頼みにしたいところもあっただろう。
 折しも9月初めに狗奴国に関する新説が出されたばかりである。「卑弥呼の邪馬台国と争った国が熊本に 九州説に新解釈」と産経新聞(2019年9月2日)で報道されていた。

 この説は免田式土器の分布図が、邪馬台国と抗争した狗奴国の勢力を反映していると推察するもの。九州説の立場を取る大和(奈良県)ゆかりの考古学者ら3人が8月、狗奴国の実態に迫る学会発表を行った。魏志倭人伝によると、狗奴国は女王・卑弥呼が君臨した国々の南に位置し、卑弥呼とは抗争状態にあったとされる。考古学者らはその勢力圏の中心が熊本県内にあったとし、狗奴国の位置から邪馬台国は福岡県域にあったと主張している。
 畿内銅鐸圏の国々を狗奴国と比定した古田武彦説とは異なるが、最近の考古学的成果を踏まえつつ、再検討するべき時機が来ているのかもしれない。


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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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