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 徳島県三好市山城町は高良神社の密集地帯である。『山城谷村史』(山城町史編集委員会、昭和34年)に記載された村内の神社一覧表には、高良神社が5社も書かれていた。その調査は3年前(2018年)の夏に行って、山城町内の相川・末貞・佐連・瀬貝西の4社までは現地を実見することができた。だが、最後の尾又地区だけはいくら探しても見つけることができなかった。今回はその再チャレンジ編である。

<徳島県の高良神社の密集地帯>
徳島県の高良神社①ーー三好市山城町相川
徳島県の高良神社②ーー三好市山城町末貞
徳島県の高良神社③ーー三好市山城町佐連
徳島県の高良神社④ーー三好市山城町瀬貝西
徳島県の高良神社⑤ーー三好市山城町尾又
徳島県の高良神社⑥ーー美馬市脇町の脇人神社境内社
徳島県の高良神社⑦ーー鴨神社の境内社・国瑞彦神社に合祀されていた

 今年も全国的に連日の集中豪雨であるが、山城町の白川谷川沿いは3年前の西日本豪雨でも相当の被害を被っている。がけ崩れの起きた山肌はコンクリートで固められたところもあるが、当面は緑の森が戻ることはない。そのような災害の傷跡を横目に見ながら尾又地区へと山道を登っていく。

 やはり簡単には見つかりそうにない。集落の最上部まで登っていっても神社の鳥居さえ見かけないので、地元の人に尋ねてみたが高良神社については全く知らない様子。高い場所からのぞき込むように集落を見下ろしてみたが、それらしき建物も見えない。大豊町桃原(高知県)の集落も急な斜面を切り拓いて、よくこのような場所に生活しているものだと感心したものだが、山城町尾又(徳島県)はさらに急な斜面を開墾しており、道路のふちに立つと断崖絶壁のような恐怖すら感じる。地元の人からの情報も得られず、本当に高良神社があるのだろうかと疑いが湧いてきた。

 八方ふさがりとなり、日も傾いてきた状況で、ふとグーグルマップ上に「神社」と出ている場所を思い出した。3年前にも、高良神社の鎮座地ではないかと予想した所だ。一度は下から登ろうと試みたが途中で道が途絶え、たどり着くことができなかった。
 今回は新たなインスピレーションがあった。集落の上方から道がつながっているのではないかという推理である。第一候補の道に入るも、すぐに柵で道が閉じられている。やむを得ず、もう一つ上の道から進んでいった。人が住んでいないような民家の前を横切りながら、目的の場所には近づいている感覚はある。だが、民家を過ぎると道は消え、目の前には森林が横たわる。よく見ると森を下っていく石段があった。日没前であったが、光が差し込まず暗闇へと続く階段である。ここを降りていくしかない。

 足元に気を付けながら進んでいくと、暗闇の中に突然、鳥居と社殿らしきものが現れた。扁額に書かれていたのは「高良神社」である。3年越しの宿題をついに解決することができた。尾又にも高良神社が実在したのである。これで三好市山城町の高良神社5社をコンプリート。かつての相川名・末貞名・佐連名・瀬貝名・尾又名(〜名は古い行政単位のようなもの)に各一社ずつ。「一名(みょう)一高良」といった様相を示していたことが分かる。

 山城町尾又の高良神社の祭神は高良玉垂命や武内宿禰などではなく、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)――「海幸山幸」の神話に登場する山幸彦である。神社そのものを隠すだけでは足らず、祭神すらも隠そうとしているかのようだ。わずか十数名の集落でありながら、神社自体の手入れはなされているように見えた。
 高良神社の鎮座地として2つのタイプがあることを以前言及したことがある。①河口津・川津に付随するような場所(海彦型)と、②平家の落ち武者伝承でもありそうな山中(山彦型)の2種類である。前回紹介した大豊町桃原の高羅大夫社や山城町の高良神社群は②のタイプに分類される。

 さて、帰り道が第一候補の道とつながっているか確認してみた。やはり、こちらが本来の参道となる道のようだが、二重の柵でふさがれていることが分かった。「御用のない者、通しゃせぬー♪」のようである。闇に包まれた高良神社の存在に何かしら畏敬の念すら覚えつつ、夕暮れの尾又を後にした。

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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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