『長宗我部地検帳』に「ホウシ分」とあることから、高知市春野町西分の「宝司部(ほしぶ)」地名が中世以前にさかのぼれる古い地名であることが判明した。「宝司」という漢字のイメージから、個人的な印象では福岡県太宰府市蔵司地区の「蔵司」(収められた税を管理する役所)のように、古代の役所か何かに関係する地名ではないかとの期待もあった。
しかし、古くは「法司」「法師」などとも表記され、「宝司」は最も新しく当てられた漢字のようである。『長宗我部地検帳』に「ホウシフン」とある音を基本に考えるべきだろう。そこで向かったのが高知大学図書館。地名辞典を開きながら、全国に似たような地名はないかと探してみた。『地名が解き明かす古代日本ー錯覚された北海道・東北ー』(ミネルヴァ書房、2012年) の著者・合田洋一氏も「渡島は北海道ではない」ことを論証した際に、古田武彦氏のアドバイスで全国の「渡(わたり)」地名について悉皆調査を行ったという。
しかし、古くは「法司」「法師」などとも表記され、「宝司」は最も新しく当てられた漢字のようである。『長宗我部地検帳』に「ホウシフン」とある音を基本に考えるべきだろう。そこで向かったのが高知大学図書館。地名辞典を開きながら、全国に似たような地名はないかと探してみた。『地名が解き明かす古代日本ー錯覚された北海道・東北ー』(ミネルヴァ書房、2012年) の著者・合田洋一氏も「渡島は北海道ではない」ことを論証した際に、古田武彦氏のアドバイスで全国の「渡(わたり)」地名について悉皆調査を行ったという。
当時はまだコロナが流行する前だったので、時間をかけて調査することが可能であったが、コロナ禍の蔓延防止対策として、ここしばらくの間は、大学関係者以外は図書館内の滞在は30分程度までと決められている。館内には少ない人数しか見当たらないのだが、学問の発展にとってはやや残念な現状である。
地名辞典を検索しながら、「ホウシ~」に似たような地名はないかと探したところ、「傍示峠」のような地名が多く存在することが分かってきた。「数多ければ勝つ」とは言い切れないが、やはり統計的手法も可能性を絞り込んでいく上では有効である。
四国では愛媛県・徳島県・高知県の県境に「三傍示山」があり、大阪府(河内国)と奈良県(大和国)の境にも「傍示(ほうじ)の里」という地名が残っている。傍示とは傍(ふだ)を立てて、国境であることを通行人に示した標柱のようなものである。全国的に見ると、この「傍示」に由来する境界線付近につけられた地名が多いようである。ちなみに高知県には「傍士」姓も存在する。
四国では愛媛県・徳島県・高知県の県境に「三傍示山」があり、大阪府(河内国)と奈良県(大和国)の境にも「傍示(ほうじ)の里」という地名が残っている。傍示とは傍(ふだ)を立てて、国境であることを通行人に示した標柱のようなものである。全国的に見ると、この「傍示」に由来する境界線付近につけられた地名が多いようである。ちなみに高知県には「傍士」姓も存在する。
そのような事例を多く目にすると、春野町西分の「ホウシ分」も元は「傍示分」だったのではないかという思いになってきた。古くは濁点抜きの表記も多く「ボウジ」が「ホウシ」と書かれている可能性もある。そもそも「西分」という地名自体が喜津賀分を東分と西分とに分けたことに由来する。「宝司部」はその東分と西分の境目だったのではないか。驚くべき大発見を期待しすぎていたが、意外と結論は平凡なものなのかもしれない。
一応、「宝司部」が境界付近に位置しているか確認しておく必要はある。『長宗我部地検帳』に記載された当時の喜津賀(木塚)は長浜村の西に隣接する地域で、西分は西分村及び西諸木村、東分は内谷村・東諸木村・吉原村からなっている。現在、「宝司部」地区は西分にあり、東は芳原と接している。境界部という条件に合いそうだが、西分の小字図を見てみると、「法司分」の東隣りに「南林口」「マガリヤ」などと続く。地検帳にも「ホウシフン」に続いて西分内に出てくるホノギである。境界線が変わった可能性もあるが、そうでなければ傍示を立てるべき場所とは違う。どうも「傍示」に由来する地名ではなさそうだ。
他にもいくつかの可能性があり、一つ一つ調べていくことにしよう。
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塾講師
趣味:
将棋、囲碁
自己紹介:
大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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