はじめに断っておくが、安芸郡といっても広島県の話ではない。土佐国安芸郡の郡衙がどこにあったかという問題である。郡衙の位置を正確に比定することは、古代官道がどこを通っていたかを復元することにもつながる。ここでは次の3つの説を紹介する。
①安芸郡奈半利町コゴロク説
②安芸市安芸川右岸ミヤケダ説
③安芸市安芸川左岸の川北説
①安芸郡奈半利町コゴロク説
まずは、①安芸郡奈半利町コゴロク説から。『土佐日記』に「十日けふはこのなはのとまりにとまりぬ」と書かれており、土佐国司の任を終えた紀貫之は京への帰途、承平5年(935年)1月10日に奈半利に立ち寄っている。原田英祐氏は次のように説明している。
まずは、①安芸郡奈半利町コゴロク説から。『土佐日記』に「十日けふはこのなはのとまりにとまりぬ」と書かれており、土佐国司の任を終えた紀貫之は京への帰途、承平5年(935年)1月10日に奈半利に立ち寄っている。原田英祐氏は次のように説明している。
「なはのとまり」の現在地は、奈半利川の川尻に近い安芸郡奈半利町字ミナトの奈半利中学校から、さらに奈半利川を1kmあまり遡上したところに「コゴロク」の地名があり、弥生~奈良時代にかけての濃密な遺跡が発掘されている。郡衙に付随した古代寺院(コゴロク廃寺=のち北川村和田に再建された妙楽寺)の瓦も、発掘確認されている。この付近に土佐日記時代の「泊まり=宿泊施設」が推定できる。コゴロクの上流域・中里地区にある多気神社と坂本神社はともに延喜式内社で、コゴロクの郡衙に付随したものだろう。(『土佐日記・歴史と地理探訪』東洋町資料集・第六集P130)
②安芸市安芸川右岸ミヤケダ説
次に、②安芸市安芸川右岸ミヤケダ説。佐賀大学の日野尚志氏(地理学専攻)は条里余剰帯を根拠に、南国市比江の国衙跡から東西に伸びる古代官道を推定している。官道に沿った駅家(うまや)比定地として、土左国では大影(吾川郡)・池川(吾川郡)・広瀬(吾川郡)・柏原(吾川郡)・鴨部(土左郡)・国府(長岡郡)・夜須(香美郡)・安芸(安芸郡)・奈半利(安芸郡)・室戸(安芸郡)・佐喜浜(安芸郡)・甲浦(安芸郡)を挙げている。安芸駅と奈半利駅については次のような註釈を加えている。
次に、②安芸市安芸川右岸ミヤケダ説。佐賀大学の日野尚志氏(地理学専攻)は条里余剰帯を根拠に、南国市比江の国衙跡から東西に伸びる古代官道を推定している。官道に沿った駅家(うまや)比定地として、土左国では大影(吾川郡)・池川(吾川郡)・広瀬(吾川郡)・柏原(吾川郡)・鴨部(土左郡)・国府(長岡郡)・夜須(香美郡)・安芸(安芸郡)・奈半利(安芸郡)・室戸(安芸郡)・佐喜浜(安芸郡)・甲浦(安芸郡)を挙げている。安芸駅と奈半利駅については次のような註釈を加えている。
▼日野尚志氏の駅路比定には修正すべき点が存在する |
(61)安芸郡家は玉造の「寿正院」か、その西南三町には「ミヤケダ」の小字名もある。なお、川北の小字「横田」を通称「厩尻」といい、散布地であるが、あるいは駅祉であろうか。その他「馬越」地名もある。これを受けて、岡本健児氏は『土佐史談』160号(土佐史談会、昭和57年)「地名から見た安芸郡衙」の中で、「城領田」は少領田、すなわち郡司の「スケ(次官)」である少領から変化した地名として、古代安芸郡衙の所在を「城領田」「ソヲリ」「東トノダ」「西トノダ」の存する地域であると推定。「郡衙は現在の安芸市の土居と東浜の境界付近である」と言及した。すなわち安芸条里の広がる安芸川右岸、「ミヤケダ」付近に比定したのである。
(62)奈良時代の創建とみられるコゴログ廃寺祉がある。
(「南海道の駅路――阿波・讃岐・伊予・土左四国の場合――」より)
最近話題となった瓜尻遺跡からはかなり南方に離れているが、ジョウマン遺跡には近い場所となっている。
③安芸市安芸川左岸の川北説
③安芸市安芸川左岸の川北説
最後に、③安芸市安芸川左岸の川北説である。『土佐史談』234号(土佐史談会、2007年)「土佐国安芸郡家についての歴史地理学的考察」で、朝倉慶景氏は安芸川左岸にある川北地区の「カヂウ」地名に注目している。これを衙中(がちゅう)の変化した地名とした。「駅家(うまや)」の跡地と考えられる「厩尻(うまやのしり)」地名が安芸川左岸にあり、駅家と衙中が非常に近距離であることから郡家の条件に合致するとしている。
①~③いずれの説も根拠を持ち合わせており、捨てがたいものがある。整合性があって、より確度の高いものはどれであろうか。周辺の状況なども踏まえて、さらに検討を加えていきたい。
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塾講師
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自己紹介:
大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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