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 『さんSUN高知1月号』が唐人駄場遺跡(土佐清水市松尾977)を紹介しているのが目に入った。昔はほとんど見向きもされないような場所であったが、近年は観光案内のパンフレットなどにも掲載されるようになって、パワースポットとしても知られるようになってきた。
 古田史学を知るものにとっては、ここに鏡岩という縄文灯台が存在し、『魏志倭人伝』に登場する侏儒国の領域に比定される場所だということで関心を持つ方もいらっしゃるだろう。古田武彦氏は1993年に土佐清水市の協力を得て、足摺岬周辺の巨石遺構について調査を行っている。その調査結果については、昭和薬科大学文化史研究室による『足摺岬周辺の巨石遺構――唐人石・唐人駄場・佐田山を中心とする実験・調査・報告書』(土佐清水市教育委員会発行)としてまとめられている。
 『さんSUN高知1月号』の表紙の紹介文は次のような内容であった。
 足摺半島にある不思議な巨石群「唐人駄場」。この一帯は花崗岩からなり、6~7m級の石や、円形に連なったストーンサークルと思われる石の配列が見られ、まるでパワースポットです。この地から見上げる冬の星空はまた格別。近くには観光牧場やキャンプが楽しめる唐人駄場園地もあるので、神秘の謎を探りに行ってみませんか。
 花崗岩の密度は約2.5g/㎤であるから、ピラミッドの石が約1㎥(一辺が1mの立方体)としても2.5トンの重さになる。これに対して唐人駄場の巨石は小さく見積もって一辺が4mの立方体、すなわち64㎥としても約160トン以上の重さがあることになる。
 これが人工的に配置されたとすれば、どのようにして移動させたのか。イースター島のモアイにも匹敵するような作業になるだろう。「人長3、4尺」と記述された侏儒国の小人とは対照的な巨人のような人間(唐人)が持ち運んだとの想像が唐人駄場の地名由来になったとも言われている。
 ところで、巨石遺構群からやや下った場所に、英国のストーンヘンジに勝るとも劣らない世界最大級のストーンサークルがあったと言うと、驚かれるだろうか。戦前は列石が残っていたが、戦後公園にするために中の石を取り除いたのだという。紹介文中の「キャンプが楽しめる唐人駄場園地」がかつてのストーンサークル跡である。はりまや橋と肩を並べる“がっかり名所”となってしまった。

 また、この情報誌の表紙に北極星を中心とした北の星空を唐人駄場遺跡と共に撮影していることには、何か深い意味を感じる。
 韓国ドラマ『冬のソナタ』ではヨン様演じるチュンサンが、「山道で迷った時にはポラリスを探すといい」と語る。「星って時間が経つと動くじゃない?」とヒロインのユジンが疑問を投げかけると、チュンサンは「ポラリスだけは北の空にあって動かないんだ」と名ゼリフを伝える。
 お分かりかもしれないが、ポラリスとは北極星の事である。この冬ソナ効果でポラリスペンダントが飛ぶように売れたという。
 高知県には古代において天之御中主、北極星を祭神とする妙見信仰が根付いていた形跡があり、現在は星神社と名称変更して約61社が存在する。
 極めつけは、四万十市初崎の一宮神社に国内では珍しい北斗七星の象眼が埋め込まれた七星剣という太刀があることだ。橿原考古学研究所の調査では「古墳時代後期から飛鳥、奈良時代」の太刀と発表されている。
 『三国志』の「赤壁の戦い」で、諸葛亮孔明が「手前が東南の風を吹かせてみましょう」と周瑜に申し出る。南屏山に七星壇という祭壇を築いて剣舞をひたすら舞い、儀式を捧げて火計を成功に導く下りは有名である。北極星と北斗七星は古来より、航海する者にとっても欠かすことのできない知識であった。
 四万十市から足摺岬一帯が『魏志倭人伝』の侏儒国であり、黒潮に乗って裸国(チリ北部)・黒歯国(エクアドル)に向かう基点だったとすれば……。『さんSUN高知』の編集者がそこまで意識して表紙を作成したなら、七星剣だけにかなりの切れ者とお見それする。



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『探訪―土左の歴史』第19号 (仁淀川歴史会、2023年6月)
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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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