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 「斎明六年棟札」問題に踏み込んでみようと思ったのは、『大豊史談第13号』(大豊史談会、昭和60年)に掲載されていた「棟札・大豊町を中心に」と題する松岡司氏の論考を目にしたことがきっかけであった。「上桃原の熊野十二所神社に、斉明云々と大宝二年の記載が見られる棟札がある。その記載どおりの時代のものなら大変だが、これは疑問が多すぎる」としていた。
 その一方で、高岡郡日高村の小村神社の棟札について、次のように紹介している。
小村神社・仁治元年(1240)の棟札 234、7cm
現存する高知県最古の棟札である。社の造替の経緯を伝える本文のなかに書き込まれ、後世ののように形式化した配置ではない。本県最古にふさわしい棟札といえよう。
 小村神社には「勝照二年(586)」という九州年号を伝える貞和三年(1347)の棟札が存在する。当ブログでも4回シリーズで“小村神社の始鎮は「勝照二年」その1その2その3その4”と紹介した。土佐国の歴史を多元史観によって再構築する嚆矢(こうし)となった渾身の研究であった。同神社には御神体として七世紀前半のものとされる国宝・金銅荘環頭大刀が伝世されており、年に一度しか公開されないが、レプリカであれば日高村の道の駅に展示されている。



 話を棟札に戻そう。この時代頃までは、単に造替えの年代を記すだけでなく、創建年代をも伝える棟札がいくつか見られる。
 普通社寺には、棟札というものがある。造営・修造などの行われた年月・造営・修造にあたったものまたは大工の氏名などを記し、棟木に打ちつけて、後日の記念とするものであるが、「土佐國蠧簡集」巻二及び「南路志」閡国第十之六に収められた熊野神社の棟札は、その創建の由来を伝えている。それによると、建久元年(一一九〇)十一月田那部永旦というものゝ手で、紀州熊野神社より勧請して、この地に建立されたものとしるされている。(『土佐古代史之研究』創刊号、昭和39年、前田和男著「田野々の熊野さま――幡多郡大正町田野の熊野神社――」より)
 「斉明6年棟札」には意味不明な語句などがあり、棟札の文面が形式化する前の段階のようであり、サイズも小村神社の物に近い大型タイプである。斎明六年棟札の銘文をもう一度見ておこう。


奉上棟、参大妙見御社、五穀豊饒處福貴村社祭、元福嶋守定大都、干時斎明六庚申霜月十五日、大願主敬白、敬右志音所祈所、
白勢宮拾滿等也(不明)、大施主日哭處命(不明)、大工櫻(不明)、新兵(不明)
 ▲熊野十二所神社(長岡郡大豊町桃原)に現存する棟札
 
 「元福嶋守定大都」とあり、福嶋姓は中世に見られる有力な氏族でもある。「定大都」は一見「大都を定む」といった意味にも取れそうだが、文脈および周辺の状況を鑑みると、「定福寺大僧都」の省略形であろうか。最後の行は不明だらけであり、いつ書かれたものか時代比定が難しいのもよく分かる。炭素年代測定法など、科学的な手法を取り入れて調査する必要があるかもしれない。
 もしも高知県最古の棟札と判定されれば、高知県の古代史を揺るがす大発見ということになる。そうでなかったとしても、後世において創建にまつわる記録を書き写した可能性もあり、史料的な価値がなくなるわけではない。とりわけ斉明六年(660)と大宝二年(702)というONライン(九州王朝と大和朝廷の政権交代)を前後する2つの年号をそれぞれ記す2枚の棟札が、長岡郡大豊町桃原の熊野十二所神社に存在するということは大変興味深いところである。今後の調査・研究を待ちたい。

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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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