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 「5五の位は天王山」という将棋の格言がある。現代将棋では穴熊囲いに代表されるように、低く構えて、細い攻めをつなげ、大さばきを狙う戦い方が主流となり、私が好んで指していた五筋位取り戦法などはすたれてしまった。
 天王山という山は実在していて、最も有名なのは京都府乙訓郡大山崎町にある。かつては西側の山腹を摂津国(現在の大阪府)と山城国(現在の京都府)の国境がよぎり、南北朝の争乱や応仁の乱でも、戦略上の要地として奪い合いの舞台となった。なかでも、1582年に織田信長を討った明智光秀と、その仇討ちを果たそうとする羽柴秀吉が戦った山崎の戦いでは、この山を制した方が天下を取ることになるとして、「天下分け目の天王山」と表現された。

▲吾川郡いの町天王ニュータウン

 前置きはそれくらいにしておいて、昨年(2021年)9月に『肥さんの夢ブログ』で “日本各地にある「天王」”というタイトルで、高知県吾川郡いの町天王ニュータウンの地名を紹介していただいた。その際、「いの町の天王は、何に由来するものでしょうか?」との質問をいただいていたが、正確なところが分からず、そのままになっていた。このほど有力な情報が見つかったので報告させていただきたい。
 『伊野史談第50号』(伊野史談会、平成12年)に大岩稔幸氏の「天王・八坂神社建立の経緯」という記事があった。天王という地名について、元伊野町会議員・森沢豊吉翁(平成11年没)の話が紹介されている。「天王地区には天王山、天王ヶ谷という字(ほのぎ)があった。山は削られ、谷は埋められたため、現在は山も谷も消滅している。『天王』という名前は新たに勝手につけた団地名ではない。天王山という山があったので、関係者全員が『天王』という名前がよかろうという事になった」という。
 ここに登場する天王山は関西の山ではなく、高知県吾川郡いの町天王ニュータウンにおける話である。旧高知八田街道にある鳥越峠に沿って北側に聳える三角に尖った山であった。そしてこの山を含む北側の字をも天王山、下の字を天王ヶ谷といった。この天王山は造成地第一の高地であったが、昭和61年工事が始まって、2ヵ月ではやくもその面影は消失したと記録されている。
 その山にはかつて祇園様(牛頭天王)が祀られていて、後に現在の八田天王島に移転したという。昔は八坂神社と言われていたが、いつの間にか中島神社になった。すなわち、この牛頭天王および天王山が「天王ニュータウン」の地名由来ということになりそうだ。

▲いの町八田の中島神社(祇園様)

 天王ニュータウンは八田地区(吾川郡)と池ノ内地区(旧土佐郡)にまたがって新しく造成された町である。したがって天王地区には産土神(うぶすながみ)としての氏神様というものがなかった。この天王ニュータウンという名称の由来となった「祇園様」を再度天王地区に招来し、氏神様としてお祀りしようという試みがあったが、八田からUターン分祠はかなわず、結局京都の八坂神社からⅠターン御霊分けとなったようだ。
 
平成12年に遷座された天王八坂神社は八田の境谷の東隣りで、天王南七丁目にも接する池ノ内木屋ヶ谷に鎮座する。この八坂神社を天王地名の由来とするには新しすぎると感じていたが、以上のようないきさつがあったわけである。
 昭和29年の市町村合併により、八田も池ノ内も同じ吾川郡伊野町に合併されて、2004年(平成16年)に吾北村、土佐郡本川村を新設合併。その際、現在の平仮名表記「いの町」になった。



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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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