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 「高良神社の謎」シリーズも県外へ足を延ばし、四国を出て関西・中部地方まで情報網を広げるようになった。そんな矢先、新型コロナウイルスの蔓延により、複数の都道府県で緊急事態宣言が出される状況になり、現地を訪れる機会はめっきり減ってしまった。
 先ごろ(2020年)、岐阜県で高良玉垂命を祀る神社は朝浦八幡宮のみ(“岐阜県の高良神社――朝浦(あそら)八幡宮相殿の高良明神”)と拙ブログで紹介したところ、すぐさま福岡県の犬塚幹夫氏より情報提供があった。「実はもう一社、勝神社という神社があります」とのこと。情報をもとに調べてみると、確かにその通りであった。

 不破郡垂井町表佐(おさ)に高良玉垂命としてではなく、「筑後玉垂命」を祀る勝神社があったのだ。表向きは高良神社ではないので、岐阜県神社庁のサイトの検索にかからず、祭神としても高良玉垂命でもなく武内宿祢でもない。筑後玉垂命として祀られる例はこれまで見聞きしたことがなかったのだが、高良大社(福岡県久留米市御井町1)が筑後国一宮であることから考えても、高良神社の祭神として間違いなさそうである。
 これに対して、美濃国一宮は金山彦を祭神とする南宮大社(不破郡垂井町宮代1734-1)である。古くは仲山金山彦神社と呼ばれたが、美濃国府の南に位置するところから南宮神社と称するようになった。ここには古代官道の駅制に使われた駅鈴が保管されており、毎年11月3日には公開されている。
 その東隣りに大領神社があり、祭神は壬申の乱で功績のあった大領宮勝木実(みやすぐりこのみ)とされている。この宮勝氏について『岐阜県史 通史編・古代』(岐阜県、1971年)では、『新撰姓氏録』の「不破勝氏 百済国人渟武止等(ぬむしと)之後也。不破連氏 百済国都慕(つぼ)王之後毗有(びゆう)王ヨリイヅル也。」を引用し、不破勝氏・不破連氏ともに、「おなじ不破郡に定着した百済系の先進的な文化氏族とであったとしておくあたりが、一応穏当なのではなかろうか」(P189)との見解を示している。
 百済系渡来人が何の後ろ盾もなく、他国へ移り住むということは通常は考えにくい。倭国九州王朝は百済と同盟を結んでおり、古代寺院建設など技術を持った集団を九州王朝の中枢にいた有力者が用いたとすれば、話は理解できる。現に大領神社付近に宮代廃寺跡がある。
 さらに東へ1km余りの場所に鎮座しているのが、今回注目している勝神社なのである。『新修垂井町史通史編』(垂井町、1996年)に次のような記載がある。
 「従四位下勝氏明神 垂井町表佐字四番屋敷一七二九番地鎮座 (旧村社) 勝神社  祭神 勝氏明神 (相殿)受鬘命・筑後玉垂命・諏訪住吉 」
 正直なところ、この勝神社の位置づけをどう理解すべきか思案し続け、一年近く経ってしまった。この神社の本殿の北側には前方後円墳があり、鳥居前に立てられた古墳の説明板には次のような記載がある。
垂井町指定史跡
  勝宮古墳
        昭和三十五年一月二十六日指定
 この古墳は、全長三〇メートルの前方後円墳で、勝神社本殿の北に接しており、東側を流れる相川の氾濫のため周囲の地形が著しく改変されていて、現在は後円部と思われる部分のみ残っている。かつて、古墳の周囲の地中三~五メートル付近から、粘土に混じって須恵器や土師器の破片が出土したと伝えられている。勝神社の祭神、筑後玉垂命(武内宿禰)の墓として信仰されている。
   平成二十九年五月   垂井町教育委員会

 相川をはさんだ北側にも直径40mの大形円墳である綾戸古墳(垂井町綾戸907)があり、須恵器の三足壺が出土。こちらも武内宿禰の墓との伝承が伝わる。高良玉垂命を武内宿禰に比定する説もあるが、勝神社が「筑後玉垂命」という名前を伝えているということは、大和朝廷の臣下などではなく、九州の筑後から直接来た神様であるとの主張が感じられる。
 以前紹介した朝浦(あそら)八幡宮相殿の高良明神は飛騨国に、勝神社の筑後玉垂命は美濃国の中心部に祀られていたことが分かる。高良神社の空白地帯と思われていた岐阜県にも、かつて九州王朝の影響が及んでいたことを示しているのではないだろうか。もう少し深く掘り下げて調べる必要がありそうだ。


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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
 算数・数学・理科・社会・国語・英語など、オールラウンドの指導経験あり。郷土史やルーツ探しなど研究を続けながら、信頼できる歴史像を探究しているところです。
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