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 “高知県西部(幡多地方)に集中する白皇神社”の記事を書いてから、「白皇神社、このあたりに密集していること気になってました」「出雲とは関係ないのでしょうか?」など、いくつかの反響をいただいた。全国的にはほとんど知られていない白皇神社が高知県西部の幡多郡に密集している事実――これをどう理解すべきだろうか。
 幡多地方の白皇神社はほとんどが「オオナムチ」を祭神としていることから、出雲神話の大国主との関係を考える方も多いだろう。オオクニヌシの別名とされるオオナムチは『風土記』にも登場し、『日本書紀』でもオオクニヌシのことを一貫してオオナムチと書いている。
 その一方で、民間伝承にもオオナムチの説話は多く残されており、実際にオオナムチの信仰は広く分布していたことを思わせる。神話の世界にも一元史観と多元史観という視点の導入が必要となってくるのだが、その考察についてはまた回を改めたい。
 さて、幡多地方の白皇神社の祭神は「大巳貴命」との表記が大半である。そんな中で旧大内町では「大名持命」という表記になっている。大内町は高知県幡多郡にあった町で、1957年に月灘村と合併し大月町が発足した。現在の大月町の西半にあたり、宿毛湾に面し、柏島を擁する。

 『大内町史』(大内町史編纂委員会、昭和32年)には白皇神社が9社(うち合祀2社)記載されている。ところが、グーグルマップ上で神社を検索しても、どういうわけか大月町内で白皇神社は一社も出てこない。インターネット上では数社検索にかかるようだが、ネットの情報が万能ではないことが分かる。
 1889年(明治22年)、町村制の施行により、弘見村・添ノ川村・小満目村・頭集村・一切村・鉾土村・平山村・天地村・橘浦村・泊浦村・芳ノ沢村・清王村・柏島村の区域をもって奥内村が発足。1951年(昭和26年)、奥内村が町制施行・改称して大内町となった。

 白皇神社は①弘見に2社、②芳ノ沢に2社、③平山、④清王、⑤泊浦に各1社、⑥頭集では音無神社に合祭として記述されている。祭神については、弘見に鎮座する2社のみ「大山祇命」とされているのは不思議だが、他はすべて「大名持命」である。そしてほとんどが旧村社であったことから、一村一社ならぬ「一村一白皇」という形態がとられていたと推測する。つまり、白皇神社をもって各村をまとめていたのではないだろうか。
 “高知県西部の「白皇神社」再考③――白川伯王家とのつながりを発見”の回で、やっと白皇神社と神祇伯白川家との関係が垣間見えたところであったが、この大内町にもその片鱗が見つかった。柏島の稲荷神社(幡多郡大月町柏島9番)の扁額に、白川伯王家の手による御染筆があるという。
「正一位稲荷大明神」安政四年六月十五日
神祇官統領 神祇伯資訓王御染筆
 柏島の稲荷神社は日向国橘に鎮座する稲荷宮の御分霊として、貞和四年(1348年)にこの島に渡ってきたと伝えられている。また、安政元年(1854年)大地震があり、柏島の被害が少なかったのは稲荷神社の加護によるものとして臨時祭を行い、神祇伯家より神体及称号と鳥居額字御染筆を受けたというのだ。
 調べれば調べるほど興味深い事実が見えてくるものである。現大月町には月山神社・一宮神社・塩釜神社・音無神社・鷣(はいたか)神社・曽我神社など、謎に包まれた神社が多く残されている。現地の情報をしっかりと拾い上げながら、幡多地方における白皇神社の濃密分布の意味を正しく理解していきたい。



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 大学時代に『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦著)を読んで、夜寝られなくなりました。古代史に関心を持つようになったきっかけです。
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